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今さら聞けない?なぜアメリカの雇用統計はそんなに注目されるの?

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昨日、米国の昨年12月分の雇用統計が発表されました。非農業部門雇用者数は前月比+14万8000人と市場予想の+19万人を下回る結果となったものの、失業率は市場予想通りの4.1%となっております。

 

昔からこのアメリカの雇用統計は、金融市場(特に為替の世界)では一大イベントとなっています。日本の金融機関で働かれていて、普段は早く帰る市場参加者もこの日だけは、会社に残ってこの雇用統計の動向を見守るという人も多く、特別な緊迫感を作り出しています。

 

今回はそんな雇用統計に関して、スポットを当ててみたいと思います。

 

 

なぜ雇用統計は重要なのか?

アメリカの金融政策を決める連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, 通称FRB)はDual Mandateと呼ばれるものがあります。その定義は「デュアル・マンデートとは|金融経済用語集」で紹介がされています。

デュアル・マンデート(Dual mandate)は、アメリカ合衆国において、連邦準備制度理事会(FRB)と連邦公開市場委員会(FOMC)に対して、金融政策の運営にあたって課せられている法的使命のことをいいます。これは、1946年の雇用法(Employment Act)に原点を持ち、1977年の連邦準備改革法(Federal Re-serve Reform Act)において、「最大限の雇用(maximum employment)」と「物価安定(stable prices)」が二つの使命として最初に定められました。

 

つまり米国の金融政策の動向を見る上で、「雇用と物価」という2点が注目されています。特にこの雇用というのは、企業活動と密接に関係があり、更には個人の消費動向にも影響を与えるため、注目が集められています。

 

米国ではGDPの約7割が個人消費と言われています。多くの人が職に就き、給与水準が上がっていけば、個人の消費動向にはプラスに作用します。給与の上昇と消費の拡大は、物価に対しても良いインフレを引き起こすことが期待されます。そういった意味で、雇用統計というのは米国の経済動向を見る上で、多くの人が注目をしています。

 

雇用統計って具体的に何を指すのか?

ではアメリカの雇用統計といったときに、具体的には何を指すのでしょうか。通常、アメリカの雇用統計は前月分が翌月の第1金曜日に発表がされます。もちろんスケジュールはその時によって異なりますが、基本的にはこのスケジュールになります。

 

この日の東京時間21時30分(冬時間だと22時30分)に発表がされる労働関連指標のことを雇用統計といいます。外為どっとコムさんの「経済指標 週間予測・速報カレンダー」では、以下のように雇用統計の予定が表示されています。

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左から前回値(下は修正値)、市場予想、結果という順番で出ています。今回のこちらのページですと、「非農業部門雇用者数変化」「失業率」「平均時給(前月比)」という3つのデータが掲載されています。

 

通常、「非農業部門雇用者数変化」「失業率」の2つはいつでも注目がされます。この2つは非常に注目度も高いため、「【米国】雇用統計 - 経済指標」では、この「非農業部門雇用者数変化」と「失業率」の過去からの推移がまとめられています。

 

ただ、他の雇用関連指標も、その時のマーケットの注目ポイントによっては見られてくるものもあります。今はアメリカが金利引き上げへと動いていることもあり、物価動向に敏感になっています。平均時給の拡大は、所得拡大を意味するので、最近は注目がされています。

 

この平均時給と共に併せて見ると良いもので、「平均労働時間」というものがあります。つまり平均時給が上がっても労働時間が減ってしまっていては、そこまで個人には恩恵がありません。平均労働時間と時給が増えることで、個人の可処分所得(収入)の増加を想起させるため、個人の消費拡大につながるのではとの見方が広がります。

 

今回の雇用統計に関してのレポートではないですが、「第一生命経済研究所」のレポートでは、以下のようなヘッダーでデータを紹介しています。

 

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1つの見方としては、非農業部門雇用者数変化が増えていたとしても、その増加の多くが「政府による雇用での増加」の場合、民間企業の雇用が拡大していないという見方につながり、米国経済の先行きに不透明感が広がるケースがあります。

 

また一時期は「労働参加率」に焦点があたったときもありました。労働参加率が過去最低水準であった時期には、失業率が下がったとしても、それはポジティブなことではないとの見方が広がったケースもあります。また以前議長をされていたバーナンキ氏は、長期間職を得ることができない人の数字を重視されていたとされています。その時は、「失業期間が27週以上の長期失業者の割合」という数値に、マーケットが注目していたこともあります。

 

結局、この雇用統計は雇用に関するいろいろな数値が発表されるため、その人やマーケットの状況によって解釈がさまざまになります。正解、不正解はないですので、自分なりの解釈で他のマーケット参加者が気が付かないような見方を見つけることができれば、他のマーケット参加者よりも優位性を持って、マーケットの方向を読むことができます。

 

尚、この雇用統計のデータはアメリカのBIS(Bereau of Labor Statistics)という所から発表がされます。上にある「労働参加率」と「失業期間が27週以上の長期失業者の割合」の箇所も、発表元のBISのデータとリンクさせました。発表元が一番データが豊富ですので、英語にはなりますが、ぜひここからデータの収集・分析を行っていただくと良いかと思います。

www.bls.gov

 

ちょっとマニアックですが、非農業部門雇用者数の定義的な話

少し混み入った話ですが、そもそもこの農業部門雇用者数変化はどのようにして算出がされているのでしょう。「アメリカ・雇用統計|経済指標|みんかぶFX」では、定義をこのように紹介しています。

アメリカ・非農業部門雇用者数(NFP)(前月比) とは


雇用統計の中で、失業率と並んで最も注目される指標のひとつ。事業所調査によって、非農業部門に属する事業所の給与支払い帳簿を基に集計された就業者数。経済政策変更のきっかけとなる事が多い。米国の指標の中で最も注目される指標の1つ。

 

つまり自営業者や経営者は実際に働いていたとしても就業者としてはカウントされません。また一方で2か所以上から給与をもらっている人はダブルカウントされています。

 

加えて、もう1つ重要な点は調査期間になります。調査期間は、毎月12日を含む1週間になります。なぜこれが重要になるかは、次の項目でご紹介します。

 

雇用統計の結果を予想するヒント

このマーケットに非常に大きな影響を与える雇用統計ですが、もし予め結果を予想することができ、その方向にポジションを持つことができれば、良い結果が生まれるかもしれません。そのためには、どのようにして考えていくのが良いでしょう。

 

まずはADP雇用統計という経済指標があります。これは米国の給与計算代行会社である民間企業のADPという会社が、通常雇用統計の2営業日前に発表している指標になります。調査方法が似ているため、ADP雇用統計の結果によって、この金曜日の雇用統計への期待感・警戒感を生み出すことが多いです。ただ実際は必ずしも相関があるわけではないので、あくまでも参考程度に見られています。

 

また米国供給管理協会(Institute for Supply Management / ISM)という所が、製造業・非製造業へのセンチメントを発表しています(ISM製造業景況指数、ISM非製造業景況指数という経済統計を聞いたことがある方も多いかと思います)。この中に雇用指数と呼ばれるものがあります。この数値が前月から改善していれば、雇用統計への期待感も高まることになるでしょう。この雇用指数はニューヨーク連銀製造業景気指数といった他の経済指標にもあるケースがあります。

 

最後に週次で発表がされている新規失業保険申請件数(Initial Claims)です。これは失業した人が失業保険給付を初めて申請した件数を集めたものになります。週次で発表がされているため天災や祭日などによっても大きく変化しますが、毎週発表されているので速報性が高く、マーケット参加者は注目しています。ここで、前項でお話した「雇用統計の調査機関は毎月12日を含む1週間」という定義が重要になってきます。つまり、この12日を含む週の新規失業保険申請件数が改善していれば、雇用統計の結果への期待感が高まります。一方で悪化していれば雇用統計の結果への警戒感が高まるでしょう。雇用統計の調査期間にあたるところの指標は他よりも注目度合いが高くなります。

 

少し話はそれますが、数年前twitterで話題になった「にほんばっしー」を覚えている人はいるでしょうか。にほんばっしーは、日本橋のゆるキャラという位置づけでメディアに出ていたりしました。彼の中の人は金融機関の方で、雇用統計の結果予想では、非常に精度のモデルを作られていました。

 

このモデルに関して、ZAiの取材でこう答えています。

「要は、『回帰分析』をしているんです」

難しい言葉が出てきました…。「回帰分析」っていったい何?

「簡単にお伝えすると、たとえば、『気温』で『アイスの売り上げ個数』を説明するとします。お店がアイスの入荷個数を決めるにあたって、過去のデータを使い、どのくらい売れるかを予想する分析です。

(出所:「金融社畜の妖精「にほんばっしー」に突撃(4)驚異の的中率を誇る米雇用統計予想法!|ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!? - ザイFX!」)

 

またこのモデルで使われている経済データは以下の14個になります。

  • 新規失業保険申請件数
  • ニューヨーク連銀製造業景気指数の「雇用」
  • フィラデルフィア連銀製造業景況指数の「雇用」
  • ミシガン大学消費者信頼感指数
  • カンザスシティ連銀製造業景況指数の「雇用」
  • ダラス連銀製造業活動指数の「雇用」
  • リッチモンド連銀製造業景況指数の「雇用」
  • 消費者信頼感指数の「雇用不十分」
  • 消費者信頼感指数の「雇用困難」
  • 米ドル/円変化率(1カ月前)
  • ISM製造業景況指数の「雇用」
  • S&P500指数変化率(1カ月前)
  • ADP雇用統計
  • チャレンジャー人員削減予定数

 

(出所:「金融社畜の妖精「にほんばっしー」に突撃(4)驚異の的中率を誇る米雇用統計予想法!|ドル・円・ユーロの明日はどっちだ!? - ザイFX!」)

 

この「金融社畜の妖精「にほんばっしー」に突撃(4)驚異の的中率を誇る米雇用統計予想法!」という記事では、「にほんばっしーモデル」の詳細が書かれているので、ご興味のある方はぜひ一度見てみてください!

 

終わりに

最後になりますが、米国の雇用統計の時はマーケットが自分の思惑と逆に動くケースにも注意してください。あまりにも予想と違う数字が出た場合、ドル円で1円以上動くケースというのは非常に多くあります。

 

利益を出せる場であると同時に損失も大きくなる場でもあります。またこういったマーケットが動くときというのは、為替レートのスプレッド(売値と買値の差)が大きくなります。通常よりも不利なレートで約定がされるケースも想定しておいてください。

 

あくまでも負けない取引、リスクを管理した取引を心がけて、正しく収益に結びつけていくことができれば、非常に面白い場面になります。

 

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