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SABRモデルを日本語で紹介している数少ない書籍と関連英文書籍

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今回ご紹介するのは「トレーダーは知っている-オプション取引で損をしない「法則」」です。こちらの書籍は、元トレーダーの方が書いた本であるということで基本的な内容から実務的な内容まで幅広く提示がされています。
 
第1章では、為替マーケット、先物マーケット、金利スワップマーケットの基本から始まり、その後はボラティリティの説明といった基礎知識を踏まえ、オプションポートフォリオの管理という実践的な内容まで踏み込んでいます。
 
非常に内容としては幅広いのですが、今回はSABRモデルを紹介している数少ない日本語での書籍という切り口から、当書籍を取り上げさせていただきたいと思います。
 

なぜこの本を手に取ったか

金利デリバティブに携わる仕事をしているため、金利オプション(スワップション / Swaption)のプライシングモデルとして一般的なSABRモデル(セイバーモデル)を知りたいと思ったため、この本を手に取りました。英語ではより深く説明がしてある本もあるのですが、日本語で勉強をしたいと思っていたところにこちらの本がありました。
 
尚、当記事の最後で参考として英語版でのおすすめのSABR Modelの書籍もご紹介したいと思います。
 

感想

SABRモデルの重要な所はどこかと言われると、もちろん計算方法の部分になるかとは思いますが、その前の段階として4つのパラメーターが何を指しているのかを理解するところにあります。
 
SABRモデルでの4つのパラメーターとは、アルファ・ベータ・ロー・ニューとなります。当書籍では実務的な計算方法や、昨今のマーケットで観測されているマイナス金利への対処法という点はあまり載っていませんが、そもそもSABRモデルとは何かというところを非常に分かりやすく紹介しております。
 
ちなみにざっくりそのパラメーターが何を指しているかというと以下のようになります。
  • アルファーはボラティリティ
  • ベータはスマイル(ベータが1であればログノーマルモデル、0(ゼロ)であればノーマルモデル)
  • ローは原資産の動きとボラティリティの相関
  • ニューはボラティリティのボラティリティ
 
著者は円金利スワップションの他にコモディティも取引をされていた経験もあるようで、コモディティの話なども出てきますが、もしご興味がなければ読み流しても問題ないかと思います。
 
またSABRモデルは所謂、個人投資家の方が通常使うモデルではないので、そういった方にはお勧めはできません。(ただこの書籍の最初に書いてあるオプションのシミュレーション等は読み物として面白いかとは思います。
 
結論としてはSABRモデルについて説明された日本語の書籍は他に知らないので、そこの部分だけでもこちらの書籍の存在価値は非常に高いと思います。特にベータを0あるいは1にしたケースでのボラティリティの挙動を直感的に分かりやすく提示してくれていた点は、この書籍を購入してよかったと感じる点の1つでした。
 
ベータは上にも書いたように、ベータが1であればログノーマルモデル、0(ゼロ)であればノーマルモデルとなります。一般的にボラティリティは%で表示されることが多いのですが、その%で表記をするのはログノーマルモデルということになります。一方で、何bp(ベーシスポイント=1/100%)という実数値で表すのが、ノーマルモデルとなります。
 
例えば現在金利が0.1%だとします。ボラティリティが200%だとすると、この10%というのがログノーマルボラティリティであり、0.1%*200%の0.2%、つまりは20bpというのがノーマルボラティリティとなります。
 
そもそもボラティリティで200%というのがあるのかという所ですが、これは金利の世界ではよく見受けられます。世界的な金融緩和で金利水準が低くなったことによって、変動率で見たときに%の値が大きくなってしまうのです。
 
それは10,000円のものが20,000円になるということはなかなか起きにくいと思いますが、0.1%が0.2%になるということはかなり一般的ということは感覚的にも分かりやすいかと思います。そういったことがあるため、特に金利のマーケットでは%表記のボラティリティだけではなくbpという実数値での表記が一般的なのです。
 
でも実際実務的なことで考えると、この%とbpでの表記の中間的な考え方でボラティリティを考えるのが、ちょうど良いという考え方(より現在のマーケットにフィットしている)を持ったトレーダーの方もいます。そういったときに、このSABRモデルを使い、どの程度%寄りの数字にするか(あるいはbp寄りの数字にするか)といったことを決めていくのです。
 
また相関係数もこのモデルでは非常に大きな意味を持っています。株式のマーケットをモニターされている方だとお分かりいただけるかと思いますが、一般的に株式市場では株価が下落するとボラティリティがあがるという逆相関の関係にあります。金利スワップのマーケットではこの金利とボラティリティにどの程度の相関を考慮させるかも決めることができます。
 
またもう一つボラティリティのボラティリティというものがあります。実際ボラティリティをモニターしているのとボラティリティ自体も動いています。例えばリーマンショックのような金融市場に大きな影響が起きるイベントが起きた場合、ボラティリティ自体が高くなります。これがボラティリティのボラティリティが高まる事象と言えます。
 
こういった各種パラメーター(事象)を加味して、オプションの値決めをし、リスクを捕捉しようというモデルがSABRモデルとなります。ただこちらの書籍もSABRモデルの解説は比較的多いものの、それでも15ページ程度に抑えられています。
 
そのため、より深く勉強されたい方は、英語になりますが以下の「SABR and SABR LIBOR Market Models in Practice: With Examples Implemented in Python (Applied Quantitative Finance)」やThe SABR/LIBOR Market Model: Pricing, Calibration and Hedging for Complex Interest-Rate Derivatives」がお勧めです。